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2006.01.10

ブナと暮らす家。

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 中部地方から東北にかけての少々高い山を歩いたことがある人なら、ブナにきっと会っている。樹高30メートルに達する落葉広葉樹で、白神山地をはじめとする保護運動でずいぶん知られるようになった。東北の森の代名詞、王の風格は確かにある。ミズナラやトチも王様の器ではあるけれど、ブナは純林を形成して山の「面」を圧倒的に支配するからだ。10 km四方以上がブナブナブナ・・・という広がりは白神だけでなく、岩手秋田の八幡平、和賀、山形の朝日連峰、飯豊連峰などにいまも存在する。
 雪深い奥山の環境に、気候帯で見れば日本海側気候に順応してきた木らしい。圧雪にこらえてしなやかに曲がることで、稚樹や幼樹も折れずに生き伸びる。逆に言えば、雪が少ない環境では他の樹木に負ける。だから東北でもぽつぽつ見られるのは標高300メートルくらいからで、それ以下では、ましてや平地の真ん中で会えるものではない(北海道渡島半島では、海岸近くから自生する群落が見られるらしいが)。
 そのブナがわりかし近い平地にあった。場所は岩手県胆沢町(この2月には水沢市や江刺市と合併して奥州市とやらになる)。ここは富山県砺波平野と並ぶ散居集落のまちである。「要」から先端まで20kmもある広大な扇状地に、屋敷林を従えた住まいが、濃緑の玉をばらまいたように点在する。その屋敷林の中に、ブナがあるのだ。
 かつてこの土地が森林だったもっと寒い時代に、ブナは生きていたことだろう。そこに人が入って開墾し、住まいを構えた。周囲に食べる実のなる木、用材となる木を、冬の北西風を防ぐように一通り残し、また積極的に増やした。木々はもちろん燃料にも、落ち葉を堆肥にもする。土地の言葉で「エグネ」と呼ぶ屋敷林である(仙台近辺では「イグネ」=居久根)。ブナは元々あった木を残したのか、それとも奥山へ既に後退していた木の実を持ってきて手厚く育てたのか。どちらかはわからないが、あるいは凶作の時に実を食べるという、救荒用でもあったかもしれない。
 燃料が石油に代わり、食べ物を店で買うようになり、住まいが木でない建材になって、エグネには防風の役目くらいしかなくなってしまった。枯れ枝や倒木が掃除もされず、使い古した農機や粗大ゴミの捨て場になっているエグネばかりで悲しい(自家の敷地内であれば違法投棄ではないのだろうな)。でも一軒、とてもきれいに保っているお宅を見つけた。さまざまな針葉樹、広葉樹、竹林に混じって数本あるブナも、胸高付近の直径が50センチを越えそうな立派な木である。きれいに維持されているエグネは、まだ使われているということではないのか。家主の奥さんは庭の落ち葉を掃き集めながら、「そんな昔のような暮らしではないね」と言う。そうであろう。けれども淡く残っているかもしれない残照を、今年は見つめていければなあと思うのである。

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